【生きもの異変 温暖化の足音】(64)キノコがサクラ脅かす
今年2月、東京都八王子市の富士森公園で、倒木の可能性があったソメイヨシノが切り倒された。
日本花の会主任研究員で樹木医の和田博幸さんは、その根を見て驚いた。
食用にもなるキノコのナラタケが幹や根の道管や師管に菌糸を張ったため目詰まりが起こり、根の大半が白く朽ちていたのだ。
地上部の衰えはさほど目立たなかったが、土の中は悲惨な状態で、立っているのがやっとだった。
「ただサクラを枯らすだけでなく、危険な状態にするキノコだと心配になった」と和田さんは話す。
キノコによるサクラの被害が目立ち始めたのは4、5年前からだ。気象情報会社「ウェザーニューズ」が2007(平成19)年に行った調査でも、身近なサクラにキノコが発生しているという報告が全国から約300件寄せられた。
和田さんはその全事例を診断した。枝や幹の芯に入って木を腐らせるコフキサルノコシカケが多かった。
「ナラタケ、ベッコウタケ、コフキサルノコシカケがサクラにとっての3大危険キノコです」。いずれもひどい場合には木を腐らせて枯らすため、腐朽病害菌と呼ばれている。
森林総合研究所関西支所(京都市伏見区)生物多様性研究グループ長の服部力(つとむ)さんは「サクラは元来、腐朽が起きやすい木」と指摘する。戦後の復興期に植えられた全国のソメイヨシノは50~60歳の老齢期を迎え、腐朽病害菌に侵されやくなっている。
そのうえ、街路樹のサクラはコンクリート製の狭い街路マスに植えられているため根が痛みやすい。公園のサクラの根は人に踏みつけられやすい。剪定(せんてい)の傷口から菌が入って病気になることもある。
和田さんはサクラに付くキノコが目立つようになったのは、こうした要因だけでなく「温暖化の影響もある」と考えている。
温暖化によって極端な高温や乾燥が続くと他のキノコが淘汰(とうた)され、じっと潜んでいたナラタケやベッコウタケなどが一気に発生するという見解だ。
最低気温が上がり、冬場でも菌が成長できる環境も整った。街路マスからしみ出す強アルカリ成分にも強いなど、サクラの腐朽病害菌は、温暖化した都市を生き残る強い性質を備えているという。
では、腐朽病害菌が好む気温は何度か。服部さんは3度ごとに温度の異なる培養装置で成長を調べた。その結果、菌が最も成長するのは25度前後だった。適温は20度~30度。10度以下や40度以上は生存が難しい。
だが、服部さんはサクラに取り付く腐朽病害菌が増えたことと温暖化との関係については慎重だ。
「腐朽病害菌は昔から存在したし、温暖化で増えたことを裏付ける研究やデータがない」からだ。
気温の上昇幅を考えれば「温暖化よりも、ヒートアイランド現象による影響の可能性が高いのでは」と話す。
近年、キノコによるサクラの被害が注目される背景には全国1600人の樹木医の活躍もある。1991(平成3)年に樹木医制度ができて地域のサクラを細かく見守る目が増えた。
サクラの開花と環境・気候の関係を研究している龍谷大教授の増田啓子さんは「サクラの立ち枯れが顕著になったのは90年代からで温暖化が顕著になった時期と重なる」と温暖化との関係を示唆する。
開花時期の変化に加えてサクラはキノコにも悩まされている。
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/life/m20090404000.html -gooニュース